
やまださん物語 第4章 あれは…?!
我が家の建て替えを境に我が家の“猫銀座”から猫さんたちの姿は消えてしまいました。
早春から真夏にかけて解体と建設の工事がずっと入っていたのですから
猫さんたちに敬遠されるのも仕方がありません。
それでも建て替え後の新居への引っ越しが終わってしばらくすると
猫銀座にも野良猫さんたちの姿が少しずつ戻って来はじめました。
とはいえ顔ぶれは変わりおなじみの猫さんたちの姿を見ることはほとんど無いままでした。
やまださんの姿も解体の始まる2日前、仮住まいへの引っ越し前日に
うちの茶の間でおいしい猫フードを平らげて上機嫌で帰って行くのを見たきりでした。
「きっと落ち着き先を見つけたんだよ」と口では言いながら
窓の外に猫の姿があると思わず「やまださん?」と思ってしまうわたしとオット氏。
でも、それはやまださんではなく公園が根城の“クロッキー”だったり新顔の“ブリジー”や“シャーちゃん”だったり。
夏に新居に入居し、季節が変わった秋も終わりの頃のことでした。
「暗くなるのが早くなったね」などと話しながら外出先から二人で帰って来ると
我が家に隣接する広い駐車場の入り口近くに猫の気配。
辺りは暗くなっているのではっきり姿を目視できないのですが
オット氏が「やまださん?!」と。
驚かさないようにそーっと近づくと
まさにやまださんでした。
半分おびえたような、でも何か一生懸命思い出そうとしているようなそんな顔で
じっとこちらを見ています。
やまださんに声をかけるオット氏にその場を任せて、
わたしは大急ぎで家に入って煮干しを取ってきました。
駐車場の金網の向こうにいるやまださんはわたしの手にある煮干しを凝視するものの
近づいて来ようとはしません。
「忘れちゃったのかな…」
やまださんを怯えさせないように、煮干しを金網の隙間から中に置きました。
置いて下がるとささっとすばやく煮干しを咥えてやまださんは闇の中へ去っていきました。
寂しい思いもありましたが、やまださんの無事を確認できただけでも二人で大喜びでした。
「これからまたちょくちょく会えるかも!」
ところが、翌日も翌々日もやまださんは現れず、結局再び姿を見ることなく、その年は暮れていきました。

